「専門性取りにいく転職・複業はあり」「仕事の楽しさvs人間関係はどちらを優先?」『転職の思考法』著者が答える

第一線で活躍するキーパーソンが、ミレニアル世代に向けてキャリアの極意を語るスペシャルライブトーク「BIキャリカレ(キャリアカレッジ)」が9月からスタート! 第1回は、著書『転職の思考法』が2カ月で10万部のベストセラーになっている北野唯我さんが登場。博報堂、ボストンコンサルティングを経て、現在のワンキャリアに転じた自身のキャリアストーリーが明らかに。

告知後即満員になった超人気イベントの後半では、参加者の“キャリアのモヤモヤ”に北野さんがズバリ答えた。聞き手は、HARES代表で複業研究家の西村創一朗さん。

イベントの様子

イベントに登壇した西村創一朗さん(左)と、北野唯我さん。

この記事で読めるポイント

  1. 「やりたいこと」を見つけるには?
  2. 「専門性」は急いで身につけるべき?
  3. 30代からの異業種転職、ありですか?
  4. 夢と出世ルート、どっちを取る?
  5. 職場の人間関係はどれほど重要?

登壇者プロフィール

北野唯我(ワンキャリア執行役員):就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、経営企画担当の執行役員。「職業人生の設計」の専門家としても活動し、TV番組のほか、日本経済新聞、東洋経済、プレジデントなどのビジネス誌でコメントを寄せる。

西村創一朗(複業研究家、HARES・CEO、ランサーズ複業社員、NPO法人ファザーリングジャパン理事):1988年生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアを実践した後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。

Q1 :転職や複業に興味はありますが、「やりたいこと」が見つかりません。どうしたら「やりたいこと」が見つかりますか?

北野唯我さん(以下、北野):やりたいことが見つからない理由としては「知らない」ことが大きいのでは。東大名誉教授の早野龍五先生の格言を借りれば、「好奇心の燃料は知識である」。一般的に、「好奇心があるから知識を得ようとする」と思われがちですが、むしろ知識がなければ好奇心を持てる世界は広がらない。知識の延長で好奇心が膨らみ、さらに好奇心から新たな知識を呼び込んでスパイラル状にステップアップしていく。

これ、いつも言っているのは、「やりたいことが明確にある」印象のスポーツ選手ですら、そうなんですよね。だって、もし日本に全くスポーツがなかったとしたら、「サッカー選手になりたい」って人は日本に出てこないんですよね。つまり、「知っている」からやりたいことって生まれるんですよ。

北野唯我さん

「“知っている”から、やりたいことは始まる」

西村創一朗さん(以下、西村):同感です。さらに言うならば、僕の持論は「上手こそ物の好きなれ」。初めから「これが好き、これをやりたい」と夢中になれる対象を見つけられる人はいなくて、まずはやってみて「自分はこれが得意なんだ」という自己高揚感を得られた時に初めて「好き」という感情が生まれるのではないかと。

本田圭佑選手がオギャーと生まれた時からサッカーを好きだったわけではなく、きっと親や周りの大人がサッカーに触れさせて「上手だね」って言われたことが継続の起点になっているはずなんです。だから、「やりたいことは見つからない」人は、興味が赴くままにいろいろやってみるのがいいと思います。その中から少しでも褒められたり、人よりも得意だと気づくものがあるかもしれない。いろいろやってみる手段の一つが複業だよ、とお薦めしています。

Q2 銀行に勤めて5年目です。これといった専門性がありません。今の会社に留まるべきか、より専門性が磨けそうな会社に転職すべきか、迷っています。

会場の様子

北野:「専門性がない」という悩みは、おそらく大企業に勤めている20代のほとんどが抱えているのではないでしょうか?

西村:そうですね。新卒一括採用で、入社後は数年おきにジョブローテしていく育成法が一般的ですからね。

北野:ということは、「自分だけが専門性がない」と悩む必要はないということですよね。その上でなお、周囲と差別化したいのならば、「専門性を取りに行く転職」はありだと思います。例えば、外資系や日系の中でもグローバル感覚で職種別採用しているところに行く。あるいは、西村さんがおっしゃっているような複業で専門性を磨く、あるいは経験を積む場を増やすという手もありますよね。

複業をキャリアに活かそうという場合は、「レジュメ(履歴書)に書けるレベル」を目指すことが大事。最初からお金稼ぎを目的にするのは間違いだと思っているんです。例えば、1本数千円でもいいから書く仕事を複業で始めたとして、1年続けることができたとしたら、充分にレジュメに書けますよね。銀行に勤めながら新たな専門性を身につけられます。

西村創一朗さん

西村:複業はキャリアの選択肢を増やす“試職”だと考えるといいと思います。新卒一括採用でジョブローテしながら育てる日本型の仕組みって、「やりたいことをゆっくり見つける」にはすごく良い仕組みなんですよね。海外では最初から専門領域を絞って就職するのが当たり前ですから、向いてなかった時のリスクが半端ない。その点、日本企業の場合はジョブローテーションの名の下にいろいろな経験をさせてもらえるし、「営業では鳴かず飛ばずだった彼がマーケに行ったら大ブレイク」みたいなミラクルも起きる。いわゆるリトマス試験紙的にいろんな部署を回って適性を図れるんです。

ただし、難点が一つあって、そのリトマス試験紙の数にはどうしても限りがある。2〜3年起きに異動するとして20代で使える試験紙はせいぜい3枚程度。この枚数を増やせるのが社外での活動=複業なのだと思っています。例えば、半年ごとに違う複業を試してみたら10年で20枚も試験紙が増えるわけですから。使わない手はないなと思います。お金目的で複業を始めないほうがいいという北野さんの意見には、激しく同意します。

Q3 アパレル勤務歴10年。現在は10店舗のマネジメントを約3年担当しています。業界全体が先細りする中で異業種に転職すべきか? 30代からの異業種転職には無理があるのか?

北野:業界の生産性が低い、しかも、この先も上向く可能性は低いという状況で、「沈みかけた船から他の船へ飛び移るべきか?」という質問ですね。僕は飛び移るべきだと思います。なぜなら人生100年と言われる時代において、30代時点の「この先」というのは果てしなく長い。全然遅過ぎることはないのではないでしょうか。

ただ、その移り先については、必ずしも異業種に限らなくてはいいのではと思います。きっと質問者は10年もアパレル業界にいらっしゃったのだから、アパレルが好きだと想像しますから。沈みゆく中でも伸びていく何かを見つけられそうだとしたら、そこに飛びついてみる

オフィスに1人でいる男性。

異業種転職の前にノーリスクミドルリターンの挑戦をしてみては。

Shutterstock/ pixfly

例えば、今の会社で新規事業準備室みたいな場所があるのなら、そこに手を挙げて、船ごと浮かび上がるようなアイデアを生み出してみる。うまくいけば大成功で出世のチャンスだし、失敗してもその経験を持って転職もできるし、元の仕事にも戻れる。つまり、ノーリスクミドルリターン。

大企業で偉くなっている方の足跡を伺うと、30年前に傍流の新規事業にチャレンジして大当たりして出世したという例が少なくないんですよね。きっと、当時は「あいつ終わったな」と見向きもされなかったはずですが、波に乗って会社ごと救った。もし失敗したとしても、部署異動するだけで一文無しになるリスクもなし。まずその路線を考えてみてはいかがでしょうか。

Q4 20代です。今いる会社では出世ルートにいますが、本当にやりたいことは本に関わる仕事です。出世の道を捨ててまで、斜陽産業である出版社に移るべきか迷っています。

北野:めちゃくちゃ面白い質問ですね。まず、出世ルートに身を置いているということは『転職の思考法』に置き換えると、「ニッチスター」になりつつあるということ。スキルや経験を十分に備えていて、今の業界では「仕事ができる」というステージにまで自分を育てている。さらに人的資産を築くのが得意であれば、このまま今の会社にいてニッチスターの道を目指すという手もある。効率はこっちのほうがいいです。

ただ、出版業で本当にやってみたいことがあるならば、やはり思い切ったほうがいいんじゃないかと僕は思います。なぜなら、すでに今の会社で認められるキャリアがあるので、もし失敗したとしても、巻き返しのチャンスはいくらでもある。出版業でもどの会社に行くかというのはしっかり吟味すべきですが。

西村:僕もチャレンジしたほうがいいと思います。最近、「AIに代替されない仕事は?」という質問をよく受けるのですが、僕は「偏愛」だと思っていて。シンプルに「やりたいことがある」と突き進む熱狂の先にしか、人にしかできないバリューは生まれない。仮に出版社に飛び込んで失敗しても、その熱狂から生まれた数々の仕事は必ずキャリアの肥やしになる。

かつて北野さんが辞表を提出して眠れない夜を過ごし、海外から帰国して再就職に落とされまくった経験も、すべて肥やしとして『転職の思考法』というベストセラーに集約されたわけじゃないですか。安定を取り続けた結果の失敗は救いようがないけれど、熱狂に突き動かされた結果としての失敗は、誰かにとっての価値にもなると思います。

Q5 「仕事は楽しいけれど、人間関係が最悪」あるいは「人間関係は良好だけど、仕事はつまらない」というとき、どう考えるべき?

話し合う社員たち

「職場の人間関係」は「業界の生産性」にかなり影響される。

shutterstock/imtmphoto

北野:結論から言うと、「人」重視だと思います。結局、人間は「自分の時間を使って誰と過ごすか」に行き着く生き物だと思っています。自分の市場価値がある程度高まって、職場を自由に選べるフェーズになったら、間違いなく「人」重視の軸で選んだほうがいいと思います。結婚生活を長く続ける上で、スペックよりも人間性を重視する人が多いように、仕事も同じではないかと。

ただ、注意すべきなのは、「職場の人間関係」は「業界の生産性」にかなり影響されることです。成長産業ならば椅子の数は10から15に増え、さらに20……となるけれど、業績が悪いと10が8になり、5になり……と過酷な椅子取りゲームになっちゃうわけです。例えるなら、家族ですら「来年から5人じゃなく4人になります」ってなると雰囲気悪くなりますよね?すなわち、業界生産性と人間関係は相関していることが多く、その結果として伸びている業界は人間関係もうまくいきやすいと言えると思います。

西村:前職のリクルートエージェントで「転職を決める理由の6割は、半径5メートルの人間関係」と言われていたのですが、本当にそうだなと思います。職場の人間関係は、仕事のモチベーションを大きく左右しますよね。ただ、「人間関係が嫌」という理由だけで転職してしまうと、同じ轍(てつ)を踏むことはある。「他人は変えられないが、自分は変えられる」という視点に一度立って自分自身に成長すべきポイントはないか分析した上で、やりたいことをより快適に実現できる場所が見つかったら移る。この順番を大事にすべきだと僕は思います。

(取材・文、宮本恵理子)

『1分で話せ』伊藤羊一さんと考えるミレニアルのキャリアのつくり方【イベント開催】

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