2019/11/27

日本に帰れるのは14カ月後! これから南極へ向かう“パラボラ大好き女子”の胸の内

第61次南極越冬隊の佐々木貴美

“パラボラ大好き女子”、南極へ行く

ここはKDDI山口衛星通信所。巨大なパラボラアンテナの前で満面の笑みを浮かべているのは、現在KDDIから国立極地研究所(以下、極地研)に出向中の佐々木貴美。「私、パラボラアンテナが大好きなんです。だって、大きくてかっこよくないですか?」と熱く語る、世にも珍しい“パラボラ大好き女子”である。

第61次南極越冬隊の佐々木貴美 佐々木貴美/2014年、KDDI入社。プラットフォーム開発本部でシステム開発などを担当した後、2019年より国立極地研究所へ

佐々木はこれから第61次南極越冬隊として2019年11月に日本を発ち、南極の昭和基地へ向かう。日本に戻ってくるのは2021年2月。一度行ったら14カ月間、日本には帰れない。

なぜ、佐々木は南極に行くのか? 実はKDDIは2005年から極地研に毎年1名の社員を出向し、南極大陸の天文・気象・地質・生物学の観測を行う「南極越冬隊」の隊員として現地に派遣している。

第55次南極越冬隊員のKDDI濱田彬裕 第55次南極越冬隊員のKDDI濱田彬裕。後ろの巨大な船は、南極に向かう自衛隊の砕氷船「しらせ」
第58次南極越冬隊員のKDDI笹栗隆司 第58次南極越冬隊員のKDDI笹栗隆司。昭和基地周辺の雪かきも隊員の重要な任務だ
第59次南極越冬隊員のKDDI齋藤勝 第59次南極越冬隊員のKDDI齋藤勝。南極の映像や音声を昭和基地から衛星回線経由で日本へ送る

KDDIの南極越冬隊員は南極において昭和基地の通信の保守という重要な任務を担ってきたが、女性の隊員は佐々木が初めてだ。

佐々木はどうして南極越冬隊に志願したのだろうか? そして、これから始まる南極生活に向けてどのような思いを抱いているのか? 本人に話を聞いてみた。

無線の資格と健康であることが必須条件

――まず、佐々木さんが南極越冬隊に志願した理由と、選ばれるまでの経緯を教えていただけますか?

佐々木:志願した理由は、通常の業務ではできない新しい経験ができると考えたからです。KDDIでは毎年11月に応募者の選抜が行われます。応募には、業務に必要な無線の資格、そして健康であることが必須条件です。無線の資格は「第一級陸上特殊無線技士」。KDDIの技術系の社員の多くが取得しています。私も入社後に取得しました。そして社内での書類審査や面接を経て、極地研の担当者との面接、訓練、健康診断などがあり、それらを通過すると晴れて隊員になることができます。

――訓練にはどういったものがあるんですか?

佐々木:2019年の2月に、長野県の雪山でビバークする訓練がありました。穴を掘ってテントを張って、そこで寝泊まりするというものです。

第61次南極越冬隊による長野県の雪山での訓練の様子 第61次南極越冬隊による長野県の雪山での訓練の様子

また、南極に向かう海上自衛隊の砕氷船「しらせ」の船上訓練もありました。実際に南極越冬隊として南極へ行くときには、しらせ船内の通信ネットワークの保守も私の重要な任務になります。

海上自衛隊の砕氷船「しらせ」 海上自衛隊の砕氷船「しらせ」

大好きなパラボラアンテナに囲まれて

――いま、KDDIの山口衛星通信所に来ているのはなんのためですか?

佐々木:衛星通信の設備の研修を受けるためです。南極の昭和基地は、ここ山口衛星通信所と衛星通信でつながっています。ここで実際に衛星通信の設備に触れながら、運用や保守の方法などを担当者からレクチャーしてもらっているんです。研修の期間は約1週間です。

KDDI山口衛星通信所で研修を受ける佐々木貴美

――ここ山口衛星通信所には、パラボラアンテナがたくさんありますね。

佐々木:はい! パラボラアンテナって、やっぱりかっこいいですよね。こんなにたくさんのパラボラアンテナに囲まれると、テンションが上がります(笑)。

KDDI山口衛星通信所 大小様々なパラボラアンテナが咲き乱れるKDDI山口衛星通信所

――佐々木さんがパラボラアンテナに惹かれるようになったのはいつからですか?

佐々木:私は大学で宇宙理学を専攻していたのですが、当時、同じ学科の女子たちと、長野県の野辺山にある国立天文台を訪れたんです。そこには直径45mのパラボラアンテナがあって、初めて見たときはそのあまりの迫力に感動! まわりの女子たちと一緒に「大きくて、かっこいいねー!」ってキャッキャ盛り上がって(笑)。その体験がもとになり、大学の研究室では電波天文学を専攻することに決めました。

――パラボラアンテナを見て「かっこいい」と感じる女性は珍しいかも……。

佐々木:そうですかね(笑)。その後、就職活動で山口県を訪れる機会があり、そのときにたまたま、ここKDDI山口衛星通信所を通りかかったんですが、たくさんのパラボラアンテナが建ち並ぶ姿を見て、一瞬で心を奪われました。「なんてかっこいいんだろう……」って。パラボラアンテナは前からはもちろん、横や後ろから見てもかっこいいんですよね。

KDDI山口衛星通信所

――それをきっかけにしてKDDIに入社することになる、と。

佐々木:はい。実はそのときまで、KDDIはauをやっているスマホの会社くらいしかイメージがなくて、衛星通信をやっていることも知らなかったです。そしていろいろ調べていくなかで、これほどたくさんのパラボラアンテナを、国や自治体などの公的機関ではなく、民間企業が持っているところに意外性を感じました。

また、私がパラボラアンテナに惹かれる理由として、電波という目に見えないものに大量の情報が詰まっている、というのもあります。周波数がちょっと違うだけで凄まじいデータ量をやり取りできるって、考えてみると不思議なことですよね。

第61次南極越冬隊の佐々木貴美

南極にどんなものを持っていく?

――素朴な疑問ですが、南極越冬隊の方々は、現地にどんなものを持っていくんですか?

佐々木:事前にコンテナが渡されて、そこに入る範囲で現地に持っていけます。ただ、なんでもありなわけではなく、なにをどれくらい持っていくかは事前に申請が必要です。

先日は他の隊員の方々と一緒に、家電量販店へカメラを買いに行きました。南極へ行くのはおそらく一生に一度の機会。せっかくなので、いいカメラを買って持っていく人は多いですね。

衣類に関しては防寒具などが一式支給されます。自分で持っていく必要があるのは基本的に下着だけです。

また、南極は紫外線が強いので、強力な日焼け止めが配布されます。サングラスも必須ですが、「支給品だけでは足りないので、予備を持っていったほうがいい」と先輩からアドバイスを受けました。人によっては5個くらい持っていくみたいです。

――現地で買おうと思っても買えませんからね。

佐々木:はい。あと、EXILEのDVDを持っていく予定です。EXILE、大好きなので(笑)。ライブを観に行くのが好きなので、しばらくお預けになってしまうのがちょっと寂しい。ちなみに、昭和基地の共有スペースには、歴代の隊員たちが置いていったDVDコーナーがあると聞いたので、私も帰国の際はEXILEのDVDを置いていこうと思います(笑)。

――これまた素朴な疑問ですが、南極ではお化粧などはどうするんでしょう?

佐々木:化粧品はひと通り持っていくつもりです。でも、先輩の女性隊員に聞いたところによると、徐々に面倒になってやらなくなっていくとか(笑)。

ちなみに、今回の第61次南極越冬隊は私を含めて5名の女性隊員がいます。例年に比べて多いほうです。心強いですね。

第61次南極越冬隊の佐々木貴美

――パソコンやスマホは持っていきますか?

佐々木:もちろん持っていきます。南極の昭和基地では、電話しかなかった昔と違って、今ではインターネットが使えますし、FacebookやLINEで日本にいる家族や仲間とやり取りができます。それが隊員たちの心の支えになっているようです。私自身、通信のありがたみを、身をもって感じることになりそうです。

――最後に、これから始まる南極生活に向けて抱負をお聞かせください。

佐々木:南極の昭和基地にもパラボラアンテナがあり、南極滞在中はそれを独り占めにできるかと思うと、楽しみで仕方がありません(笑)。ただ、南極では昭和基地の通信環境を自分ひとりで守ることが求められ、なにかトラブルがあった際はすべて自分が対処しなければなりません。責任は重大です。でも、だからこそ、やりがいも大きいはず。全力でがんばりたいと思います!

第61次南極越冬隊の佐々木貴美

というわけで、佐々木は2019年11月に日本を発ち、南極・昭和基地へと向かう。到着後は、日々の業務や暮らしなど、現地の模様を数回にわたって『TIME & SPACE』にてレポートしてもらう予定なので、お楽しみに!

文:榎本一生
撮影:中田昌孝(STUH)

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