これからのビジネスは「ローカル」「人格がある」がカギ。2021年買い物はどう変わるのか

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写真中央上から時計回りにアメリカン・エキスプレスの印南裕二氏、ホテルプロデューサーの龍崎翔子氏、Business Insider Japanの浜田敬子、ジェーシービーの三宮維光氏、下北沢一番街商店街 副理事長の大塚智弘氏。

2020年春は新型コロナウィルス感染拡大防止のため、あらゆる活動が自粛を迫られた。しかし夏からGoToトラベルやGoToイートといった施策が始まると人々の経済活動が活発化。本格的な冬に入ってからは再び感染が拡大し、先行きが見通せない状況が続く。

2020年、地方経済や観光産業を取り巻く環境はどのように変化し、2021年以降に向けて何が求められるようになっているのか。

前回に引き続き、「HOTEL SHE,」の龍崎翔子氏下北沢一番街商店街で文具店「きくや」を営む大塚智弘氏アメリカン・エキスプレスの印南裕二氏ジェーシービー(以下、JCB)三宮維光氏に、市場環境の変化と2021年の展望を聞いた。(モデレーターはBusiness Insider Japan統括編集長・浜田敬子)

「GoToトラベル」をどう評価する?

GOto

shutterstock

浜田敬子(以下、浜田):龍崎さんは以前のインタビューの中で「GoToトラベル」はスタート当初、中小のホテル事業者が参加しにくい仕組みだと指摘していました。現在の状況はいかがですか?

龍崎翔子さん

龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ):ホテルプロデューサー。L&Gグローバルビジネス代表取締役。ホテルに宿泊することを特別な体験にするべく、コンセプトのあるホテルづくりに取り組む。旗艦ブランド「HOTEL SHE,」の運営を通して、地域の魅力発信に注力している。座談会には層雲峡温泉よりリモート参加した。

龍崎翔子さん(以下、龍崎): GoToトラベルによって恩恵を受けられた事業者もたくさんいました。結果としてはやって良かったと思います。GoToトラベルをチート期間と捉えるのではなく、事業者が本質的に変わるための助走期間と捉えていればより価値があったといえるのではないでしょうか。つまり、Go Toをきっかけに顧客のニーズを理解し本当に価値のある宿泊体験を今後提供できれば、お客様は今後もホテルを選んで来てくださると思います。

大塚智弘さん(以下、大塚):飲食店は「GoToイート」があったから初めてそのレストランに行ったというお客様がいます。料理の美味しさや店の空気感など、お店側は足を運んでもらったその人たちに店の価値を知ってもらおうと努力しています。キャンペーンが終わった後でも繰り返して足を運んでもらいたいですから。

JCB三宮維光さん(以下、三宮):JCBはプライバシーを保護した形で加工したJCBカードの取引データを活用し、現金も含むすべての消費動向を捉えた国内消費指数「JCB消費NOW」を提供しています。データを見ていて不思議なのが、GoToキャンペーンの影響が消費行動をどのように変えているのかが明確な数値としてまだ出てきていないということです。GoToキャンペーンにより利用者は増える一方、割引で店頭での決済額が減るという形になると思われますが、10月以降は単価が落ちていないのに、売り上げ全体は顕著に上がっているわけではない。経済活性化の観点ではGoToキャンペーンは効果があると思われますが、データとしてこのキャンペーンがどういう変化をもたらしたのかがはっきりしてくるのにはもう少し時間がかかるかも知れません。

消費者の価値観はどう変わったか?

浜田さん

Business Insider Japan統括編集長・浜田敬子。

浜田:コロナ禍によって、利用者が求める価値に変化が起きてきていると感じますか?

龍崎求められている価値はあまり変化がないように思います。私たちの運営するホテルは、同世代的な感覚を持つ人たちが自分たちのためにつくられているという実感を持てるようなホテル。本質としてどのようなホテルが求められているのかを見つめて、それを提供することが大切だと思っています。

Amex印南裕二さん(以下、印南):GoToトラベルで旅行をしたときに感じたのは、ホテル側が安全対策を徹底しているということです。そしてその施策を、私たち利用する客側も受け入れている。マスクをすること、大声で話さないことを受け入れ、お互いが新しい環境に慣れていっているんです。コロナ禍の前であれば、ホテルや店側はなかなかそんなことは言えなかったはず。今の環境において“安全”は非常に重要なファクターです。「安心・安全な環境を確保すること」——これをあらゆるサービスの根幹として押さえたうえで、どのような価値を提供していけるか。これが今後の消費行動には重要になっていくと思いますね。

ローカルビジネスへの回帰機運は高まっているか?

下北沢商店街

180店舗が加盟する下北沢一番街商店街。AmexとJCBが協働して展開する「SHOP SMALL」キャンペーンを大々的に告知している。AmexとJCBは中小企業・個人経営の店を支援するプログラム「SHOP SMALL」の一環として、下北沢をはじめ全国各地商店街の地域活性化の取り組みに、総額5000万円を超える支援を提供した。

浜田:「ステイホーム」を経験したことで、リアルな街に行くことの楽しさ、リアルな店で買い物をすることの価値に人々が改めて気づき始めたように思います。

印南:僕は料理が好きで先日豚のモツ煮を作ろうとしたんですが、豚のモツって実はなかなか売っていないんです。それを解決してくれたのがデジタル。Googleで検索して、新鮮なモツを取り扱っている地元の精肉店を見つけました。老夫婦2人で営業している店で家の近くにあったのにそれまで知らなかったんです。

アメリカン・エキスプレスとしてはデジタルを駆使して、こういったリアルな店をどんどん知らしめていきたい。マップを作ったり、購買動向から同じ地域の人の同じ趣味・嗜好の人が使っている情報を、お勧めとして提示したりして支援をしていきたいです。

もちろん決済に関してもプラスチックカードやスマホなどのモバイル端末さえあれば簡単に決済ができる環境を用意したい。安全でスマートな決済シーンが日常の中に増えていけば、店の手間が減り営業の補助になりますから。

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印南裕二(いんなみ・ゆうじ):アメリカン・エキスプレス 加盟店事業部門副社長。入社以降、30年以上にわたりクレジットカードビジネスに携わり続けている。コロナ禍の影響により2020年3月からはほぼ在宅勤務をしており、地元の店で買い物をする頻度が増えた。

浜田:都内では新宿や渋谷といった中心部よりも、吉祥寺や下北沢などに早く人が戻ってきたという話を聞きます。これから「ローカル」なものや「スモール」であることはますます重要な価値になっていくのではないでしょうか。

きくやステッカー

きくや文具店に貼られたSHOP SMALLのステッカー。

大塚:そうですね。店側からすると、ローカルの価値を発揮するためにも、小さな店ほど大きなシステムやプログラムに入り込んで商売をするべきだと思うんです。個人店が単独で頑張ってウェブサイトを作ったところで検索上なかなかヒットしない。けれど無料の範囲内であってもGoogleに営業時間や電話番号を登録すれば、お客様は検索して来てくださる。

印南: SHOP SMALLでは、地域のお店を取材・撮影してその動画を私たちAmexのソーシャルメディアで紹介することや、Twitterにあがっている声を積極的にシェアするなども行っています。小さなお店を取り上げるほどローカルの方々は「あの店が取り上げられたんだ!」と良い反応をしてくださいますね。

龍崎:「人格」のあるビジネスのニーズは増え続けていて、コロナ禍とは関係なくトレンドを迎えていました。思えば東日本大震災の後もローカルに回帰するような熱がありましたが、その後再び都会的なものに注目が集まったりと、ローカルへの注目は一種のバイオリズムのような波を持っていると思います。

商店街や小さな店舗を支援するためにできること

三宮

三宮維光(さんのみや・これみつ):JCB代表取締役兼専務執行役員 加盟店事業統括部門長兼イノベーション統括部担当。JCBカードの加盟店に関する事業全般を統括し、カードの利用機会を増やしながら加盟店の利益を増幅する方法を考案している。新橋の自営業の家庭で育った。当時の小学校も同様の環境で育った子どもたちが多かったと話す。

浜田:ではこのローカルへの回帰を一時的なものでなく、チャンスとしてどのように生かしていけばいいのでしょうか。

三宮地域性があるということだけでは魅力としては不十分で、ローカルな魅力を発信し続けるには何かコンテンツが必要です。加盟店の事業継続性の支援としてカード会社ができることの一つに運転資金を調達しやすい仕組みを作ることも有効かと考えています。

幟

下北沢一番街商店街にある文具店「きくや」。商店街にはAmexの「SHOP SMALL」の施策を訴求するフラッグがいたるところに見られた。

開業したての事業者は、銀行からの借り入れが難しい。一方で今のクレジットカード会社のスキームは現金化が遅い。運転資金を手に入れるのにタイムラグが発生する。そうすると特に開業したばかりだと影響が大きいと思われます。新たなコンテンツ発信のサポートという意味でも、新たなサービスが提供できないかと考えています。

アメリカではトランザクション・レンディングと呼ばれているスキームを使う事例もある。クレジットカード会社が保有する売上データなどを活用して与信審査を行い、運転資金のサポートなどができればと思っています。

浜田:ホテルや文具店を経営する立場として、カード会社にリクエストしたいことなどはありますか?

温泉

SHOP SMALLの支援を受けて開催された層雲峡温泉の商店街でのイベント。

提供:L&Gグローバルビジネス

龍崎:私が今滞在している層雲峡温泉の商店街では、まさにSHOP SMALLの支援でイベントを開催できたんです。最大250万円まで支援してもらえる補助金を出してもらって、寒い中でも安全に人が集まれるビニールのイグルー(テント)やプロジェクターを購入することができました。おかげでイベントは大盛況でした。

地方の商店街が人を呼ぶためにはイベントのような機会が必要なことも多いです。けれど参加店の持ち出しでは思い切った投資がしづらい。ご支援をいただけたことで将来に蓄積できるアセットを街に入れることができました。とってもありがたかったです。

印南:地域活性化のための支援金を提供する「SHOP SMALL サポートファンド」を活用されたのですね。

大塚さん

大塚智弘(おおつか・ともひろ):きくや代表取締役。サブカルチャーの発信地・下北沢できくや文具店を営む。180店舗が加盟する下北沢一番街商店街振興組合の副理事長として、商店街の活性化にも取り組む。60円の消しゴムからサッカーゴールまで取り扱う商品の幅は広い。

大塚地域ごとの特性に合わせた支援プログラムを用意していただけるとありがたいなと思います。うちの商店街ではこれまでイベント開催時にスクラッチカードを配布してそれをクーポンとして使えるようにしていたのですが、コロナ禍においてはスクラッチカードを渡されることを嫌がる方が多い。そこで商店街のお店で買い物をした際のレシートの写真や、食べた料理の写真を特設サイトにアップしてもらったり、感染拡大を防止するためのクイズを出したりして新しいスタイルのイベントを行いました。

結果は大成功で、商店街のサイトとしてはアクセス数が増え、実際に店にいってもらうこともできた。カード会社さんには、こういったイベントやコンテンツづくりなどを地域の特性にあわせてサポートしてもらえれば助かりますね。


ローカルビジネス、スモールビジネスの事業者は、この先何を求められるのか。龍崎さんは消費者が求める価値は「本質的には、コロナ禍前後で変わらない」と話す。大塚さんはそうしたローカルが持つ本質的な価値を発揮するためにも「小さな店ほど大きなシステムやプログラムに入り込んで商売をするべき」と力を込める。この期間に商売の本質を見極め、どう変わるのか。それが今後のスモールビジネスの明暗を分けることになる。

アメリカン・エキスプレスやJCBのような、スモールビジネスを支える業界に期待されるのは、そうした地域の魅力を発信することを手助けできるようなプラットフォームを提供することだ。

「ローカル」への注目を一過性のものにしないために。あらゆる事業者が試行錯誤を続ける今、アメリカン・エキスプレスとJCBは「SHOP SMALL」プログラムを通じて街の中の小さな店舗への支援を続けていく。

SHOP SMALLについてはこちら。

前回記事はこちら。

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