持続可能な開発のために、国連が定める国際目標「SDGs」にも掲げられている「ジェンダー平等」。このジェンダー平等という視点から、誰も取り残すことなく真の意味で働きやすい会社を目指し、より良い社会へとつなげるために、企業はどのようにダイバーシティ&インクルージョンを推進すればいいのだろうか。
2021年3月18日・19日に開催されたビジネスカンファレンス「MASHING UP SUMMIT 2021」では、18日に「つなぐをキーワードに。『パートナーシップ制度』導入で目指す、働きやすいチーム作り」と題したセッションを展開。KDDIのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進の取り組みを事例に、ジェンダー平等における課題と可能性について熱い議論が交わされた。
登壇したのは、KDDIよりサステナビリティ推進室長の中村玲子氏とD&I推進室長の内海かなめ氏、そしてLGBTQ+と社会をつなぐ場づくりを中心に活動を行うNPO法人 グッド・エイジング・エールズ代表 松中権氏。モデレーターは、&Co.,Ltd. 代表の横石崇氏が務めた。
社員の相談から生まれた「ファミリーシップ制度」
企業のフィロソフィとして、「ダイバーシティが基本」を掲げるKDDIは、2020年5月に、2030年を見据えたKDDIのSDGs「KDDI Sustainable Action」を策定。社会インフラを担う通信事業者として、事業の中核事業である「つなぐ」をキーワードにした「命をつなぐ」「暮らしをつなぐ」「心をつなぐ」という3つを柱に、社会課題解決への貢献とSDGsの実現を目指している。
「社会に向き合う企業にとって、D&I推進は切っても切り離せないトピックス。KDDIには“豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献する”という企業理念があり、従来からサステナビリティ活動に取り組んできました。そのルーツに加えて、事業を通じた社会課題の解決やSDGsの実現に向け、KDDI Sustainable Actionを策定しました」(中村氏)
日本企業のなかでも早くから社会課題の解決に取り組んできたKDDIだが、そのなかでもジェンダー平等のテーマは、2005年あたりから女性活躍や育児支援というかたちで始まった。そしてその後、障がい者や外国籍の社員、LGBTQ+へとフェーズを変え、幅を広げて推進されている。
2015年7月には、家族であることが利用条件であるau通信サービスの「家族割」の適用範囲を同性パートナーにも拡充。渋谷区のパートナーシップ制度ができたことを皮切りに日本国内で意識が変化し始めたことを踏まえ、2016年に、就職時のエントリーシートの性別の記載を廃止、2017年には、社内規程上同性パートナーを配偶者として取り扱うよう改訂し、「パートナーシップ申請」を導入した。
その後、同性パートナー申請をしている社員の1人から、子どもを持った場合に会社としてサポートしてもらえるのかという相談を受け、新設されたのが2020年6月に制定された「ファミリーシップ申請」。同性パートナーの子どもを「家族」とし、住宅手当や育児休職といった社内制度が適用されるというものだ。
KDDI 人事本部 人事企画部 D&I推進室長 内海かなめ氏
日本では同性婚は認められていないため、配偶者として国の制度を受けることができない。それを「せめて会社の中では配偶者や家族として認めたいという思いでできたのが、この2つの制度です」と内海氏。
「LBGTQ+に取り組むきっかけを作ってくれた社員は、もしかしたら会社を辞めなければならなくなるかもしれないという覚悟で相談してくれたと聞いています。よくぞ勇気をもって話してくれたと今でも感謝していますし、その社員のおかげで今のKDDIの取り組みがあると思っています」(内海氏)
社員の声に耳を傾け、意見を吸い上げやすい環境を作る
&Co.,Ltd. 代表取締役 横石崇氏
「ダイバーシティの推進は、社員の働きやすさにつながることはもちろん、社員が抱く会社へのエンゲージメント(愛着、信頼)につながり、離職の軽減といったメリットも生まれやすくなる」
そう語るのは、アジア圏を代表する働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」でオーガナイザーを務める横石氏。
ジェンダー平等に取り組むことは、その人らしい働き方を提供できることはもちろん、企業にとっても意味が大きい。人材の確保や離職回避、社員の能力開発や能力発揮にもつながるからだ。キャリアプランを検討している人にとっては、KDDIのような取り組みをしている企業は大きな選択肢のひとつになり得る。
松中氏は、セクシャリティのようなパーソナルな悩みを打ち明ける場が社内にあり、会社も社員の悩みを吸い上げようとするKDDIのカルチャーを「先進的で、とても素晴らしい」とコメント。 松中氏のNPOが事務局を務める任意団体「work with Pride」が定めた、職場でのLGBTQ+に関する取組評価指標「PRIDE指標」において、KDDIのファミリーシップ制度は「2020年ベストプラクティス」を受賞している。
「KDDIさんのような取り組みは、他の企業や団体にも波及しています。自治体で言うと、すでに70以上でパートナーシップ制度が運用されています。つまり、日本の人口の3分の1がこの制度でカバーされるということになります。これからも増えていく傾向にありますから、当事者は自分の暮らしが変わっていくんじゃないかと期待が持てると思います」(松中氏)
「社会への広がりは、実感するところがある」と内海氏。少し前には、「学校でLGBTQ+の勉強をしていて、KDDIの取り組みを知りたいから資料が欲しい」と中学生から問い合わせがあり、驚きと同時に非常にうれしい出来事として、強く胸に残っているという。
「ダイバーシティが会社に根付いているかといえばまだまだ課題はありますが、受け皿を整えたことで、当事者の社員からは『子どもを持つことを夢だと思っていたけど、制度が背中を押してくれた』『会社に認めてもらえたことで、自分も会社に貢献したいという気持ちが強くなった』といった言葉が寄せられました。それを聞くと、本当にやってよかったと感じます」(内海氏)
「サポートしたい」。アライは“ウェルカミングアウト”を
社会への広がりはもちろんだが、KDDIでは2013年に初めて社員の相談を受けたときから、社員に向けてe-ラーニングなどでLGBTQ+の研修を実施。さらに現在は、「アライ(ally)」のコミュニティを作り、誰もが働きやすい環境を自分たちで広げていこうという取り組みもおこなわれている。
「アライ(ally)」とは、支援者や仲間を意味する英語で、ダイバーシティではLGBTQ+やその考え方を支援する人のことをいう。KDDIでは“ALLY”であることを表明するステッカーを希望者に無料配布。PCなどに貼るなどして、「自分はサポートしたいと思っている」という意志を表に出すことで、当事者が相談しやすい環境づくりにつなげている。
NPO法⼈ グッド・エイジング・エールズ 代表 松中権氏
「自分がアライであることは思っているだけではLGBTQ+の人たちには届きません。アライは、ウェルカムという姿勢を表に出してほしい。当事者の告白を“カミングアウト”とするならば、アライは “ウェルカミングアウト”。ひとりの力にはやはり限界はありますが、つながることで社会を動かし得る、もっと大きな動きが生まれるはずですから」(松中氏)
自分のなかにある小さな思いを大切にしたい
KDDI 総務本部 総務部 サステナビリティ推進室長 中村玲子氏
ダイバーシティというと、女性の活躍やセクシャリティについて語られがちだが、「すべての属性における、それぞれの特性や違いを多様性として考えなければいけない」と中村氏。KDDIはもともと十数社が合併してひとつの企業になり、バックグラウンドやカルチャーが異なる社員が集まった組織であるため、ダイバーシティを大切にしようというフィロソフィは、社員たちに浸透していると話す。
「私の所属している部署は、新卒の若手社員からエルダー層、定年後に再雇用で働く人といったさまざまな世代のさまざまな属性の人が一緒に働くことで、イノベーションという価値が生まれることを実感しています。いろんな価値観の人がつながることで、より良い社会や企業を作っていけるのではないかと感じています」(中村氏)
誰にでも認められている平等、そして真の働きやすさ、その人らしさについて考えさせられたこのセッション。ちょうど、本セッションの前日にあたる2021年3月17日(水)に、「同性婚を認めないのは、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」という日本で初めての判決が、札幌地方裁判所で下された。
KDDIの取り組みを通じて感じたのは、「ひとりの声は、会社を動かし、社会をも巻き込んで、より良い未来へとつながりうる」ということ。何かを変えたいと思ったら、まずアクションを起こしてみること。そんな小さなきっかけを大切にしたいと、聴く人の気持ちを前向きにさせる時間となった。
KDDIでは、ダイバーシティ推進にかぎらず、それぞれの社員があらゆる分野でSDGsが掲げる17の目標実現へとつながるサステナブルな活動に取り組んでいる。社員一人ひとりのサステナブルアクションは、個人の幸せ、そしてその先にある社会と未来へとつながっていくに違いない。
>>「KDDI Sustainable Action」社員インタビューはこちら
撮影/中山実華、取材・文/大森りえ
[KDDI]
Sponsored by KDDI株式会社
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