「働きがいのある会社」1位の企業に聞く、組織変革とデジタル活用の両立とは

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パンデミックは、私たちの生活や働き方、ビジネスのあり方を大きく変え、デジタルシフトを加速させた。デジタルを軸に“つながる”世界は今後どうなっていくのだろうか。 デジタル化に向かう日本の今の課題やITトレンド、未来の目指す姿について、1984年の創業以来、ネットワーク・ソリューションなどで多くの実績を持つシスコシステムズ(以下シスコ)の日本法人社長 中川いち朗氏に話を聞いた。

日本で2割、アメリカは8割だったコロナ前のテレワーク

── コロナ禍は、社会全体やビジネスのデジタル化を加速させました。この変化をどう捉えていますか。

中川(以下同):デジタル変革やデジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれるようになり久しいですが、残念ながら、日本は海外と比べるとDXへの遅れが目立っており、今回のコロナ禍でもさまざまな問題が顕在化しました。

コロナというパンデミックにより、強制的にリモートワークや遠隔医療、オンライン教育などを“しなければならない”状況になり、DXが待ったなしで進み始めたと感じます。企業だけでなく、2021年9月にはデジタル庁も設置され、社会インフラのデジタル化も加速するでしょう。

厚生労働省の発表によると、元々コロナ禍以前のテレワーク導入率は、2015年時点でアメリカでは8割以上あったのに対し、日本では2割程度でした。しかし、2020年4月の緊急事態宣言前後では日本のテレワーク実施率が7割程度に増加、従業員300人以上の企業では9割以上の実施率でした。これによって、働くことに対する考え方や価値観が大きく変わりました。満員電車に揺られて通勤しオフィスに行くのが仕事ではなく、重要なのは生産性だと。

また、コロナ禍が収束しても、気候変動や自然災害などの不測の事態はいつどのような形で起こるか分かりません。今回のことを教訓に、持続可能なビジネスや働き方の構築が必要です。感染が落ち着いたからといって元のような働き方、ビジネスの進め方に戻ってしまっては意味がない。私たちは、この危機を新しい未来をつくるチャンスに変えていかなければなりません。

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シスコシステムズ合同会社 代表執行役員社長 中川 いち朗氏。金融、製造、流通、IT業界の大手企業を対象とする、専務執行役員 エンタープライズ事業統括、副社長 情報通信産業事業統括を経て2021年1月に現職に就任し、日本市場向けの事業全般を統括。シスコ入社前は、日本IBMのソフトウエア事業 事業統括理事や日本ヒューレット・パッカードの常務執行役員 ソフトウエア事業責任者を務めるなど、ICT業界で30年以上の経験を持つ。趣味はトライアスロン。

── 実際にオフィス縮小や廃止など、目に見える変化も始まっています。

もちろん、オフィスが全くなくなることは考えにくいです。しかし、一度テレワークの合理性や快適性を知った多くの従業員は、テレワークの継続を望みます。そうなるとテレワーク環境の有無は、今後、会社の価値や求職者の会社選びの要因に直結します。

今後、自宅/オフィス/コワーキングスペース/カフェなど、従業員が自分にとって働きやすい場所を自由に選択できる「ハイブリッドワーク」が進んでいくでしょう。 その際に課題となるのが「快適なコミュニケーション環境」と「セキュリティ」です。さまざまな場所や端末からアクセスすることを考えると、対面時と同じような円滑なコミュニケーションがとれる環境と、安心・安全なセキュリティシステムは欠かせません。

シスコでは、最適なコラボレーション体験を提供するクラウドアプリケーション『Webex』と、ネットワークとセキュリティ機能をクラウドサービスで統合したゼロトラストプラットフォーム『Cisco SASE(Secure Access Service Edge)』で、ハイブリッドワークスタイルを提案・実現していきます。

── ITシステムやセキュリティの技術で、日本の働き方の進化を支援していくと。

はい、でもそれだけではありません。働き方改革を成功させるためには、テクノロジーやツールの導入に加えて「カルチャーの醸成」が重要です。

手前味噌な話で恐縮ですが、シスコはGreat Place to Work Institute Japanが選ぶ2021年版の日本国内「働きがいのある会社」大規模部門で1位をいただきました。当社は2001年からリモートワークを取り入れるなど、早くから社員の生産性や満足度向上のために、最新のテクノロジーを導入しながら働き方改革を推進してきました。特にこの一年は、社員とその家族の安全、健康を最優先に位置づけ、いち早く完全在宅勤務を実施したり、社員と家族が参加できるオンラインコミュニティイベントを開催したり、段階的な「Return to Office (帰社復帰プログラム)」を進めてきました。

我々は自社で身をもって、「ツールだけを導入しても変革は実現しない」ことを実感しています。最も重要なことは、社員の多様性を尊重しつつ共通の価値観でつながる企業文化であり、その企業文化を現場に浸透させるために制度やプロセスの変革がある。そのプロセスを支えるためにITを含めたツールがあるわけです。この3点が一体となって、はじめて変革が実現します。当社は、ITソリューションだけでなく、これまで自社で培った知見を是非お客様や多くの日本企業にお伝えしたいと思っています。

まずは、自分たちが変わらないといけない

—— 2021年1月に代表執行役員社長に就任されました。どんなことに注力していきますか?

大きく2つ、「日本企業のDX支援」と「日本社会全体のデジタル化の推進」です。

まず「日本企業のDX支援」についてですが、先程お話したように、日本企業はオフィスとテレワークを適宜使い分け、社員が働く場所を選択できるハイブリッドワークの推進と、どんな場所・デバイスからも安全に接続し業務ができるセキュリティの確保が急務です。

『Webex』を通じて、従来のウェブ会議、音声会議、コンタクトセンターといったコミュニケーション方法をひとつに統合し、社内だけでなく社外や対顧客も含むビジネスシーン全般において、DX化を支援していきます。またDXを進める上で欠かせないセキュリティに対しては、ゼロトラストプラットフォーム『Cisco SASE』を通じて、ゼロトラストを前提としたセキュアで快適なネットワーク環境を提供していきたいと考えています。

次に「日本社会全体のデジタル化の推進」についてですが、シスコは、カントリー デジタイゼーション アクセラレーション(CDA)という世界各国のデジタル化を支援する投資プログラムを、世界40カ国で900プロジェクト以上展開しており、日本でもシスコの中長期のコミットメントとして投資を継続していきます。

現在、持続的で安心安全な日本社会を実現するために、公共サービス、教育、テレワーク、医療、物流、規制改革、5Gといった7つの分野に注力しています。最近では、総務省の実証実験の一環としてNTT東日本とローカル5GやVRを用いたテレワーク推進プロジェクトや、アラクサラネットワークス、NECとの3社で日本の重要インフラに向けた情報セキュリティに関する戦略的協業を発表しました。

——これらを実現するには、シスコ自身も進化し、変わっていく必要があるのではないでしょうか。

その通りです。すでに、ハードウェア中心だったビジネスモデルは、ここ数年で急激にソフトウェアサービスにシフトしています。また、機器やサービスを販売し導入して終わりではなく、今後は導入後にどう活用していただくか、どうビジネスのアウトカム(成果)を出していただくかというお客様のライフサイクル全般のご支援に注力していきます。

私は就任以来、社員に“お客様の成功こそがシスコの成功”と腹の底から感じられる会社になろうと言っています。シスコは今までシステムインフラの会社というイメージが強かったと思いますが、これからはお客様のビジネス変革を直接ご支援する会社に生まれ変わろうとしています。

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あらゆるものがつながり、共創する社会へ

—— 一方で、変わらないこと、変えてはいけないこともあるはずです。

シスコは1984年にサンフランシスコで誕生し、“テクノロジーで、世界中の人々の仕事、生活、遊び、学びのあり方を変えてよりよい世界をつくる”ことをビジョンに、インターネットをはじめとしたITネットワークの基盤づくりで世界に貢献してきました。現在はそれをさらに一歩進めて、「To Power an Inclusive Future for All(すべての人のためにインクルーシブな未来を実現する)」というパーパス(存在意義)を掲げて活動しています。

インクルーシブとは“包括的”という意味で、誰もが分け隔てなく受け入れられ認められていると実感できる状態です。すなわち、あらゆるものがつながり、誰もがどこにいてもテクノロジーの恩恵を受けられる未来を実現するという決意です。現実を見ると、今の世の中は決して均等ではありません。コロナ禍のテレワークでさえ、企業の規模や考え方によって格差が生まれました。

また、日本の都市部と過疎地でも、医療や教育の格差があります。 デジタル化の恩恵を受けられる人々と恩恵を受けづらい人々の差を解消し、今まで以上に世界中の多くの人々に大きな影響を与えていきたいと考えています。 これは会社設立以来変わらない思いですが、今まさにその実現の転換期だと感じています。

—— では最後に、パーパス実現のために必要だと考えることを教えてください。

「共創」の推進です。これまでは、競争に勝ち、大きなシェアを獲るものが生き残る世界でした。しかし、これからの世界は、皆が協力しあいイノベーションを起こすことが必要です。

まずはシスコ自体がそういったマインドセットで、企業同士の信頼関係をリードしていきたいと考えています。東京本社に開設したイノベーションセンターや、世界に先駆けて昨年オープンした5Gショーケースも共創のコミュニティーの場を提供するものです。企業、そして日本社会をつなぎ、変革を起こす旗振り役でありたいと思っています。


シスコ社について詳しくはこちら

ハイブリッドワークを後押しする『Webex』について詳しくはこちら

『Cisco SASE』について詳しくはこちら

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